「私は今まで悩んだことがない」という人は、きっとあまりいないのではないでしょうか。
生きていれば悩みを抱えることもあるでしょう。
そしてその悩みは、自分で解決できることもあれば、自分で解決することが難しいこともあったかもしれません。
もし、自分で悩みを解決することが難しいとき、あなたならどうしますか?
相談に乗ってくれる人に話を聞いてもらったり、アドバイスを求めたりすることもあるでしょう。
しかし、カウンセリングで色んなお子さんと関わっていると、悩みを抱えているにも関わらず、相談することのハードルが高くなっているケースもあったります。
学校がある朝はトイレからなかなか出てこなかったり、夜になるとゲームをしながらイライラしている声が聞こえるなど、何かストレスがかかっていることは誰の目にも明らかな状況もあったりします。
そうした状況を家族も見かねて、「つらいことがあるなら教えて」と、親御さんから歩み寄ろうとしても、お子さんはかたくなに話そうとしなかったり、「悩んでないから大丈夫」などと、助けを拒絶するような言葉が返ってきたりします。
「何か悩んでいるとは思うんですけど、話してくれないから全然わからなくて」
こんなお声を親御さんからお聴きすることも多くあります。
また、カウンセラーなど、第三者のサポートが助けになるかと思い、親御さんがお子さんにカウンセリングを受けることを勧めたけれど、お子さんがあまり乗り気ではないお話もお聞きします。
そして、時折「私はそういう人とは違うから」、「僕は不登校とは違うから」という言葉がお子さんから返ってきたというお話をお聞きすることも。
そのお子さんが、「そういう人」、「不登校」にどんな印象を抱いているのだろうと、ふと考えてしまうお話です。
そして、そうした印象はどこで出来上がってしまったのだろうと、考えさせられてしまうお話でもあります。
小学校低学年の子がこうした言葉を話していたケースもありました。
悩みを抱える人に抱く印象は私たちが思ったよりも根深く存在しているのかもしれません。
私たちの社会の中には、心の悩みを抱えた人を「弱い人」、「かわいそうな人」のようにとらえる価値観が存在しています。
一昔前の働く職場の中では、こうした考えはより顕著だったかもしれません。
悩みを抱えている人の周囲の人たちがそうした価値観を持っていた場合、相談することのハードルが上がることはもちろんです。
しかしそれだけではなく、悩みを抱えている人自身もそうした価値観を持っていた場合、悩みを抱えている人として扱われたくないという気持ちから、相談することのハードルは上がってしまいます。
悩みを抱えてつらさも感じているにもかかわらず、相談できない状況というのは、その人自身や周囲の人の負担も増してしまうこともあるでしょう。
悩みを抱えている人が、その悩みを誰かに相談しやすくするための大切な考え方に、「問題の外在化」というものがあります。
悩みを自分の中に置く(内在化)のではなく、自分の外に置く(外在化)という考え方となります。
これまでお話してきたように、悩みを自分の中に置いてしまうと、悩みの持つネガティブなイメージから悩みを抱えている人にもネガティブなイメージを持ちやすくなってしまいます。
たとえば、自信が低くなっている子からすると、悩みを抱えたことでさらに自分を責めてしまうかもしれません。
または、「そういう人とは違うから」という言葉が出るように、プライドも高く持っている子からすると、悩みを認めることも難しくなったり、悩みと向き合うハードルも高くなってしまいます。
ですので、悩みを自分の外に置くことが大切となります。
「あなたが問題なのではなく、悩み自体が問題だよね」という考え方です。
カウンセリングでも悩みを取り上げる際は「〇〇問題について一緒に考えよう」という声掛けからスタートしたりします。
例えば、人と話すことに苦手意識がある子の場合ですと、「『人と話すの緊張する問題』について一緒に考えよう」という感じです。
「なぜ、あなたは人と話すのが緊張するのか一緒に考えよう」と内在化の視点で言われるよりも、少しだけ考えやすくはないでしょうか?
問題の外在化のメリットとしては、本人が周りに相談しやすくなるという効果だけではなく、周りと一緒に悩みと向き合っていくことができるという効果もあります。
問題の内在化の場合は、どうしても自分が責められているような対立関係に陥りやすいのですが、外在化は外に問題を置くので、相談する人と相談に乗る人が同じ方向を向いて一緒に考えやすくなります。
生きている限り、色んな人と関わる限り、悩み自体は無くなるものではありません。
しかし、悩みを抱えたとしても、その悩みを相談しやすい環境であれば、心のつらさもその分短くなるかもしれません。
悩みを抱えることで、さらに悩んでしまう状況は変えていきたいですね。
そのために私たちが大切にしたい視点の一つとして、問題の外在化をご紹介しました。
かかわる際のご参考になれば嬉しく思います。