ぬいぐるみ病院 堀口こみち様インタビュー前編~世の中にない仕事を始めること~

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堀口こみち

株式会社こころ 代表取締役
「がんばれぬいぐるみ!」を理念とし、ぬいぐるみを通して人の心によりそい、安心と癒しを届ける事業を行っている。
今回はその事業の一つである「ぬいぐるみ病院」について取材。
GOOD DESIGN AWARD 2018 BEST100受賞
その他にもテレビ、新聞など、様々なメディアからも取り上げられている。

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ぬいぐるみ病院ってどんなお仕事?

本日はよろしくお願いいたします。
早速ですが、堀口さんがされているぬいぐるみ病院のお仕事について教えていただけますか?

よろしくお願いいたします。
ぬいぐるみ病院のお仕事としましては、ぬいぐるみさんの治療ということで、
ぬいぐるみさんを命ある存在として受け入れて、お元気になっていただくことで、
ご家族の心のケアができたらいいなと思っております。

今は日々ドクターとナース、ぬいぐるみの写真スタッフと
お見送りスタッフとエステスタッフもおりまして、25人のスタッフで運営しています。

ご利用される方は、心が繊細な方ですとか、過去に辛い思いをして心が傷ついている方、
そしてぬいぐるみと一緒に暮らしている方は拠り所にされてる方が多いです。

そうした方たちのお気持ちを包み込んだり癒せるように安心していただきたいということで
お客様を家族のように私たちも思っています。

お客様というよりも、同志みたいな感じで、同じぬいぐるみを愛する人達っていうような感じでお仕事をしています。

画像提供:株式会社こころ

お客様というよりも家族や同士のように感じてお仕事をされているのですね。
そうすると、預かることの重みも、より一層ありそうですね。

本当に人間のお子さんを預けるのと同じぐらいの重みがありますね。
販売店などではたくさんダッフィーさんが売ってたりとかしますけど、
そういうたくさんあるぬいぐるみの一つではなくて、もう本当に命綱とおっしゃる方もいたり、
「その子がいないと生きていけません」っていう方も多いんですね。

本当に命を預かるという重みは日々感じてまして、
毎日、「くまちゃん」とか点呼して、入院中の患者様は常に安全が守られるようにしています。

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自分のことを理解してくれる場所

ぬいぐるみをお互いにとても大切な存在として接していることが伝わってきました。
一方で、なかなかそれを周りに伝えることが難しいこともあると思います。
そうしたときに、その人とぬいぐるみの関係だけでなく、それを理解してくれる第三者とのつながりはとても心強く感じそうですね。

お外でお友達にも言えなかったりする方がいるんですけど、
こちらでは本当の自分でいられるっていう感覚で、自然体でお話してくださっているように思います。

一年ぐらい前にタトゥーの入ったラッパーをされているようなお若いご家族がいらしてくださいました。
その方は親友とお母さんにはくまちゃんと過ごしていることを言っているけれど、
他の人には言えていないとも話していました。

誰にも言わず内緒にしていて、預けるところもなくてと、緊張して来てくださる方もいます。

けれど、私たちはもう当たり前のようにぬいぐるみさんと接するので、
そうした様子を見てすごくほっとされていますね。

本当の自分を出せる、大切な場所になっていることが伝わってきました。
あとHPを拝見すると、ぬいぐるみの国という事業も運営されているんですね。
病院だけではなく、一つの世界がそこにあるように感じました。

ぬいぐるみを通じて、心を癒している

今はぬいぐるみの国っていうぬいぐるみさんだけが暮らすWEB上の世界、国がありまして
そのぬいぐるみの国では、ぬいぐるみさん同士がお話しているんです。
もちろん、人間の家族がバッグにいるんですけど、
その国の中ではくまくんとウサギさんのぬいぐるみ同士でお話しています。
今はお休み中の方も入れたら270人くらいがそこで活動をしています。
日記を書いたり、クリスマスやいろいろなイベントを作ったり、絵を描いてたりしています。

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その中でセラピールームという心のケア室みたいのがあるんです。
それは国民さん同士でお話しする場所で、誰かカウンセラーがいてお話を聴くというよりも、
みんなで誰か悩み事があったら話し合うみたいなスペースなんです。

その時に本来でしたら人間同士、例えばAさんとBさんがお話しして、
「私ね…」ってリアルなお話をしたりとかすると思うんです。

けれどそういうのじゃなくて、
ぬいぐるみさん同士がご家族のことを話すっていう感じなんです。

「うちの家族がちょっと最近元気がないのよね」って、
「なんか学校でね、ちょっといじめにあったみたい」とかいう感じで、

そのお相手の方も「それはね辛いよね」って、
「じゃあくまくんが心を癒してあげようね」とか、「ハグしてあげたらどうかな」とか話してるんですね。

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何か客観的に見れるというか、自分のことを話すとすごくリアルで話せなかったりすることもありますし、
話してしまったら逆に傷ついたりすることもあると思うんです。

けれど、一歩引いてお話をすること、それを聴いてもらうことも、
ちょっと心のケアになるんじゃないかなって思ったんです。

初めはそこまで考えていたわけではないんですけれど、
気づいたら、そういう自分の心をお互いに癒す、そうした役割もあるのかなあと感じています。

そして今後は、治療だけではなく、頑張って来られたぬいぐるみさんとご家族のため延命治療をせずにお身体を癒す病棟も出来ます。
ターミナルぬいケアという名前で、人間のターミナルケアと同じイメージです。

その後は、お星さまセレモニーも出来る予定で、ぬいぐるみさんのお心を癒す、お星様になっていただくというところまでかかわらせていただきます。

人間の方も少子化で、ぬいぐるみさんの業界では販売が少なくなるのではと言われていたようですが、
不安な時代の中でぬいぐるみを求める人が増えたようで、ぬいぐるみは今史上最大の売上でどんどん生み出されているそうです。

そしてそれは、同時にどんどん捨てられてということでもあるんです。

そのままゴミ袋に入れて捨てるというのも、すごく心もつらいと思いますので、
お星さまになっていただくこと、ぬいぐるみ霊園で
ぬいぐるみさんが眠っていただける可愛いぬいぐるみの森を今年(2024年)オープンする予定です。

他にもぬいぐるみ産婦人科ではぬいぐるみを生み出したり、
あとはぬいぐるみ保育園は一緒に暮らせなくなった子を預かって
お風呂に入っていただいて、新しい家族を探す事業もはじまります。

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人間の社会と同じように、生きていくために必要なことを自然とされているのですね

世の中に無い仕事を始めること

ここまでお仕事の内容についてお聞きしてきました。
ぬいぐるみがどれだけ大切な存在か、その大切な存在とどのようにかかわっているのかが伝わってきました。
そこで、次は実際にお仕事をされていく中での苦労についてもお聞かせいただけますか?

最初はぬいぐるみさんの販売をしてたんですけど、
ご家族から「ぬいぐるみの綿がだんだん少なくなってきて」とか、
お怪我をされてっていうお悩みをお聞きしたので、
そこで初めてぬいぐるみさんの治療に取り組むことになりました。

でもぬいぐるみの治療っていうマニュアルや勉強するところもなかったんですね。

なのでご家族がいらっしゃって、おなかを開いて、症状を見てから、
どういう風に治療するかと考える状況でした。
一つ一つ治療技術を研究して、スタッフみんなで泣きながら取り組んでいました。

患者さんが来てから治療技術を構築するというところが、技術面としては大変だったかなと思います。

けれど今となっては、それがスタッフとの心の絆にもなっています。

画像提供:株式会社こころ

あと治療については単に技術だけではなく、
お気持ちに寄り添って、ご家族の心が癒されるような治療というのも大切にしています。
そこは千差万別で、ある方に喜んでいただいたことも別の方には喜んでいただけなかったりということもあります。

お顔の作り方とかでも全てご家族のお話を聞いて治療していきますので、
そこがお気持ちに寄り添う治療にもつながっているのかなと思っています。

一人ひとりのご家族、ぬいぐるみに寄り添い、治療をされているのですね。
ただ、世の中に治療法などの答えが無い中でお仕事をするのは不安も大きかったと思うのですが、
その原動力はどこから来るのでしょうか?

大切さが分かるからこそ、力になりたい

もともと私も心を壊したりしたことがあった時にぬいぐるみの存在で命を救われた経験があります。

そうした気持ちから、このお仕事を始めてますので、
運ばれてきてクタクタになってる患者様を見て、「ちょっとできません」ということはできませんでした。

「どうやってやるか」しかもう考えられませんでした。
自分の気持ちがやりたくないとか、やりたいとかいうことではなく、
利益になるとかならないとかそんな考えには全然なりませんでした。

そこにクタクタになっている患者様と心が不安になってるご家族がいらっしゃるのであれば、
それを断る選択肢はなかったですね。

あと、大切なぬいぐるみさんを知らない人に託すということはすごいことだと思うんですね。

私達を信じてくださって、治療をしてもいいと言ってくださるなら、
どんなことでもしたいと感じました。

ありがとうございます。
やるかやらないかではなく、やるしかない、どうやるかという状況だったのですね。

後編では、お仕事を始めるまでの思いをさらにお聞きし、今後の活動についてもお聞きしています。

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