「子どもの話を聴きましょう」
必ず目にしたであろう、このアドバイスを実践するのは簡単ではありません。
お子さんの状況によっては、話すことも難しい状況もあるでしょう。
そして、実際に子どもが自分の気持ちや考えを話してくれたとしても、その内容にどのように応答したらよいのか、迷う場面も多く出てきます。
今回は、お子さんの考えに、同意できないときはどうしたらよいのか?
このテーマについてお話をしていきますね。
「子どもの話すことにすべて同意しなければいけないのでしょうか?」
時折、こうした言葉を親御さんからお聴きします。
子どもが自分の気持ちや考えを親御さんには話してくれるものの、その内容が親御さん自身の価値観と大きく異なる場合も出てきます。
子どもとの会話が少ない場合はそうした悩みも少なくなりますが、話をしてくれる場合も、その応答に悩むことも出てくるでしょう。
そして、この言葉の奥には同意することへのためらいと不安な気持ちがあることが伝わってきます。
「これまで大切にしてきた価値観はあるものの、それを捨ててまで子どもに合わせることが今は必要なのだろうか?」
そんな思いが頭の中をめぐることもあるかもしれません。
例えば、「学校には行く意味がない」、こんな思いをお子さんが話してきたら、どんな言葉を返しますか。
「うん、そうだね。行く意味なんてないね。」と同意するでしょうか。
それとも「何を言っているの?行かなきゃ将来困るでしょ。」と否定するでしょうか。
私も、子どもの話を聴くことは確かに大切なことだと考えています。
しかし、いざ子どもの話を聴き始めると、このように応答に迷う話が出てくるでしょう。
「子どもの話すことは賛成しないといけないのだろうか、でもこの考えはさすがにちょっと心配。」
いろんな考えが親御さんの頭の中でも巡ります。
話を聴く上で大切なポイントは、話を聴くことは同意することではなく、「あなた(子ども)の考えは理解したこと」を伝えることなんですね。
つまり、子どもと親の考えは違っていてもいい、あなたと相手の考えは違っていもいい、ということ。
たとえば、先ほどの例でいえば「学校には行く意味がない。」と話す子どもに対して、「あなたがそう感じていることはわかったよ。」ということを伝えることになります。
あなたの考え自体を変えなくても大丈夫です。
けれども、子どもの話に対して、すべて「わかったよ」と応答しておけばいいわけではありません。
実際、そうした親子の会話をイメージすると、なんとなく想像できますよね。
子どもが話す内容に対して、「わかったよ」とばかり伝えていると、おそらく、軽くあしらわれた、話を聞いてくれていないという印象さえも与えてしまうかもしれません。
そうなってしまうと、次第に話すことも減ってしまうかもしれません。
親子でお互いの価値観は異なっていても大丈夫です。
そして大切なことは、「あなた(子ども)の考えは理解したこと」を伝えること。
しかし、ただ「わかったよ」とばかり伝えても、相手には伝わらない。
ではどうしたらよいのでしょうか?
「あなたの考えは理解したこと」
このことを伝えるためには、その考えや価値観を持つに至るまでの背景を理解することが大切です。
「なぜそんな考えを持つのだろう?」、「全く理解できない」など、自分自身の価値観とは大きく異なり、なかなか受け入れられない考えはあるかもしれません。
しかし、どんな考えにもその人にとっては、そう考えるべき理由を持っています。
あなたにももしかしたら「周りからは中々理解されないけれど、大切にしているマイルール」などはありませんか。
こんなふうに、私たちは様々な経験からそれぞれの価値観や信念を持ち、それをもとに自分なりの判断をしていきます。
「相手の考えを理解したこと」を伝えるためには、その考えを持つに至った背景に関心を向け、理解することが大切です。
具体的には、「どうしてそう考えるようになったの?」と問いかけてみてもいいかもしれません。
ただし、お子さんとの関係、親御さんのキャラクターによっては、言い方がきつく伝わってしまい、責められているように感じるお子さんもいるかもしれません。
あくまで尋ねるときは、「相手の考えを正すのではなく、理解するために」、この意識を大切にして穏やかな会話の中で聞いていきましょう。
それでも「どう考えてもこの考えは危険だ」ということもあるでしょう。
例えば、人に危害を加えようとしたり、自分を傷つけようとしたり。
もちろん、緊急を要する場合、話を聴いている時間もない場合は、まず止めることが必要です。
そうではない場合にまず意識しておきたいこととしては、例で出した「自傷他害の考えが良くないこと」は子ども自身も知っている、ということです。
そうした考えが良くないことを知らないのであれば教えてあげることも大切ですが、すでに子ども自身知っていることに対して、「その考えは危ないから間違っている」と教えたところで、何も進展はないでしょう。
むしろ、「自分の気持ちは理解してもらえない」と感じ、お互いの距離が離れてしまうこともあるかもしれません。
子どもも「良くないことはもちろんわかっているけれど、そうした考えを考えてしまう事情」があったのかもしれません。
その考えが正しいかどうかや、どうやって説得するかを考える前にまずその背景に関心を向けていきましょう。
親御さんの考えや気持ちを伝える場合は、その後にしていきたいですね。
カウンセリングでご家族のお話をお聴きしていると、一人一人その考え、理由は様々です。
たとえば、「学校に行く理由はなんでしょう?」と聞かれたらいかがでしょうか?
「勉強するため」
「進学のため」
「いい会社に入るため」
「友達を作るため」
「社会でやっていけるようにするため」
「行くものだから」
「別に行かなくても問題ない」等々、
いろんな理由が出てきます。
他には、「働く理由は何ですか?」と聞かれたらいかがでしょうか?
「生きていくため」
「義務だから」
「お金を稼ぐため」
「楽しいから」
「夢を叶えるため」
「なりたいものがないから理由なんてない」等々、
こちらも人それぞれいろんな理由があるでしょう。
「学校」、「不登校」、「教育」などのテーマで、私もたくさんの子ども、ご家族のお話をお聴きしてきました。
そして当然一人一人考えは異なり、全く同じということはありません。
相手の考えの中には自分自身の考えと相いれないものもきっとあるでしょう。
私自身も「私の持っている考えとは違うなあ」と感じることは自然にあります。
しかし、一人一人の考え、その背景をお聴きしていくと、どの人もその考えを持つに至った必然があることもわかります。
自分とは相いれない考えを聴いたときは、すぐにその是非を判断したり、正そうとするのではなく、「どうしてその考えを持つに至ったのだろう?」と関心を向けて、理解しようとする姿勢が大切にしていきましょう。
また、仮に自分と同じ考えだったとしても、その背景は自分と違うことの可能性の方が大きいでしょう。
人の話を理解することは、超能力のように相手の考えを言い当てることではなく、相手との対話、その積み重ねの結果です。
「ああ、そういう背景があって、その考えを持つようになったんだね。」
こんな思いや言葉が会話の中で交わされるといいかもしれません。
「自分の考えを相手は理解してくれた」、そんな実感が持てると、お互いに未来に向けた建設的な話し合いもしやすくなっていくでしょう。