プラス思考、マイナス思考という言葉があるように、私たちには考え方の癖があります。
そして、ものごとをプラスに捉えることで、困難を克服したり、大きなことを成し遂げたり、悩みから解放された人生を送ったり。
そんな生き方がメディアなどで紹介され、感動を呼ぶこともたびたびありますよね。
今回は、こうした心の悩みと心の関係についてお話していきたいと思います。
私たちは自分の心に対しては変えることができるという感覚を持ちやすい傾向があります。
たとえば、
「くよくよしていてもしょうがない、忘れよう!」
「合格するために、勉強にもっと集中しよう」
こんな風に自分なりに気持ちを切り替え、乗り越えてきた経験がある方は、より一層その感覚もあるだろうと思います。
一方、身体に対しては私たちは比較的寛容です。
たとえば、学校の先生も勉強の成績が芳しくない子に「もっと勉強しなさい」と指導することはあっても、足が遅い子に「もっと早くなりなさい」と言うことや、背が低い子に「もっと高くなりなさい」と言うことはありませんよね。
身体に対しては一人ひとりの違いを自然に許容することができますが、心に対しては身体と同じように許容することは難しいかもしれません。
「すべての悩みは、自分の気持ち次第」
たしかにこうしたメッセージはとても前向きで、人を勇気づける効果もあると思います。
実際に、どうやっても変えられない現実が目の前にあり、打つ手もない状況では、自分の気持ちを変えることで和らぐ苦しさもあると思います。
ですのでこうした状況にいる人にとっては、「気持ち次第で悩みは和らぐかもしれない」、そして「その気持ちは自分自身で変えることができる」という考え方は、救いでもあり、支えにもなりうると考えています。
一方、こうした考え方が望ましいとされればされるほど、別の問題が起きてきます。
「気持ち次第で悩みは和らぐかもしれない」、「その気持ちは自分自身で変えられる」、この考え方はとても希望を与える一方で、次のような考え方も生み出してしまいます。
「気持ち次第で悩みは大きくなってしまう」
「悩んでいるのはあなたの心が変わらないからだ」
心がもつ可能性や、気持ちは自分次第で変えられるということに期待をしすぎると、今悩みを抱えている人を責めてしまったり、傷つけてしまうこともあるでしょう。
そして、悩んでいることを自分の責任として抱え込んでしまい、ますます悩みを深めてしまったり、人を頼ることが難しくなったりするケースも出てきます。
心はたしかに悩みを軽くする可能性も持っていますが、すべての悩みを心の問題に結びつけてしまうことはリスクもある考え方となります。
悩みを扱うときには、心だけではなく、身体や人間関係などの環境面の影響にも目を向けてみましょう。
たとえば、睡眠時間や睡眠の質は心の健康にも大きく影響を与えています。
適切な睡眠時間というのは遺伝的にも一人ひとり異なりますが、一般的に睡眠時間が4時間を下回る生活習慣では、子どもだけではなく大人も心の健康を保つことは難しくなるといわれています。
また人間関係では、本人も思いもよらない友達同士のトラブルに巻き込まれてしまったりすることもあるでしょう。
あるいは学校生活の中で課題や行事などが重なり、負担が瞬間的に大きくなることもあるでしょう。
いつもなら対処可能なストレスであってもタイミングによっては難しいこともあるかもしれません。
このように、悩みを抱えている背景には、心だけではなく、様々な要因が影響し合っています。
ここまで、すべての悩みを心に結びつけて考えることのリスクについてお話をしてきました。
心だけではなく、身体や環境の要因にも目を向けることは一見複雑そうに思えますが、心だけに目を向けてしまうと、相手を責めてしまったり、お互いに対立してしまうなど、窮屈な関係になってしまいます。
相手をサポートできる選択肢を多く持つことは、そうした窮屈な関係を避けることにも繋がっていきます。
心が悩んでいるからこそ、心以外の視点も大切に持っていたいですね。